2011年2月アーカイブ

化学物質汚染の被害者の苦悩と展望

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会報6号のHP掲載が遅れていますので、特別寄稿のみブログにて紹介します。


特別寄稿1

蓄積する化学汚染と見えない人権侵害――次世代へのリスクを考える
日弁連 第46回人権擁護大会決議から7年を経過して

化学物質汚染の被害者の苦悩と展望

あすなろ法律事務所
弁護士 池田 直樹

1 被害に始まり、被害に終わる
 公害事件や労働災害事件を扱ってきた先輩弁護士は、被害者の声に耳を傾け、その被害を身体的・精神的被害だけに止めず、社会的偏見や差別や就労困難などの社会的被害、あるいは家庭の崩壊など被害者の人生そのものが大きく狂ってしまうことを、裁判において立証することに力を注いできました。「被害に始まり、被害に終わる」とは、とかく科学・医学論争や法律論に流れがちな法廷弁論を反省し、現場にこそ真実があり、それを法廷にできるだけ生のまま出していくことが弁護士の基本的役割だと我々を戒める言葉なのです。
 主人公はもちろん被害者です。被害者はできるかぎり、団結して現場で何かが起こっていることを、生活実感を通して法廷で訴え、被害の実情から救済の必要性を全人格をかけて裁判官の良心に訴える。そのことが裁判官の心にある壁を取り払って、新たな法理論や事実認定による救済の道を切り開くことになる。これは、水俣病(有機水銀)、カネミ油症(PCB、後にダイオキシンと判明)、各地の道路公害事件(SPMなど)の集団訴訟の運動の精神的なバックボーンになった考え方です。

2 現代の化学汚染被害の特徴と苦悩
 しかし、有害物質の大量曝露による急性毒性から、微量曝露による慢性毒性を中心とした症状に化学汚染の主流が変化し、被害はますます見えにくくなりました。化学汚染被害者の場合、特定の発生源からの局所的汚染というよりは、空気、食品など多様な汚染源からの複合曝露の可能性を常に考えざるを得ないうえ、被害者の生活や職業上の曝露歴や先天的・後天的な体質や既往症についても考慮の対象とならざるを得ません。現在の科学の水準から逃げられないのです。
 また、多くの化学物質過敏症患者さんの場合、その曝露形態や健康状態は多種多様であり、集団的な論争には必ずしも適していません。
 私が過去に扱った看護師さんが消毒液に含まれるグルタールアルデヒドに曝露したケースでも、他に病院内での看護師の被害はおそらくあったはずなのですが見つからず、単独での裁判になりました。同僚からの被害者を支えるための証言すら得ることはできませんでした。それでも曝露についての測定記録や発症後の診療記録があったために勝訴しましたが、特殊な薬品への高濃度曝露という背景があったといえるでしょう。
 隣接した家屋での洗浄用溶剤の使用に伴う化学物質過敏症の発症を理由として、使用の差止を求めた訴訟がありました。この事件では、そもそも洗浄用溶剤そのものを特定できず、相手方は近年そのような溶剤は一切使用していないとし、裁判所による現場の検証でも、その保管や使用は確認できませんでした。相手方は、原因は被害者の精神的な原因によるものであり、訴えそのものが不法行為だとして逆に損害賠償を請求してきたほどです。過去の長年の使用が疑われる事例でしたが、症状が悪化したときには既に使用を止めていて、溶剤を使用していた当時の空気や溶剤そのものが保全されていないという点で、曝露立証が困難な事例でした。最終的には、隣家の作業場を買い取って撤退してもらうということである意味では根本解決になりましたが、それだけの費用がかかりました。
 また、裁判にはなりませんでしたが、輸入家具からのおそらくホルムアルデヒドによる被害の事例では、購入当初の家具からの高濃度の化学物質の発生が原因と疑われましたが、販売会社との協議は決裂し、解決できないままに終わっています。
 弁護士として「被害に始まり、被害に終わる」という格言を噛みしめつつ、それがうまく実現できないもどかしさをいつも味わっています。まして被害者ご本人は体調不良に苦しみながら、その原因を特定し、責任を追及できない悔しさで眠れぬ夜を過ごすことも多いのではないでしょうか。

3 寝屋川廃プラ訴訟
 さて、2010年6月の会報5号で紹介していただいた「寝屋川廃プラ訴訟」では、周辺住民に広がる皮膚・粘膜症状や呼吸器系ののどの痛みや咳などが、2つの廃プラ工場から排出されるVOCガスに起因するものかどうかが争われています。
 特定の発生源(枚方市・寝屋川市・交野市・四条畷市の4市からの廃プラを圧縮梱包する4市組合施設と、その廃プラ等を原材料としてパレットを製造する民間リサイクル工場)からのVOCガスが問題となっている点では、まさに現場での集団的な被害発生の立証という伝統的な公害事件と同じ枠組みでの訴訟となっています。
 ただ、そこでのハードルは「立証責任の壁」です。現在の法律の枠組みのもとでは、責任を追及する側が汚染物質と発症した病気を特定し、物質と病気との間に因果関係があることを科学的・医学的に「高度の蓋然性」(約8割方確かだろうという程度)まで証明しなければなりません。大量曝露による急性被害の場合と異なり、地域に発生した特定の「疾病」がそもそもあるのかどうか、ということから証明をしていかなければならず、個人情報の保護もあって、私人による調査には限界があります。しかし、寝屋川市や保健所は、被害自体を否定していますから、公的な調査は行われないのです。
 そのため、地域での集団検診や集団的聞き取りに加えて、津田敏秀 岡山大学教授による健康被害についての疫学調査、柳沢幸雄 東大教授による周辺空気の継続調査など、まさにできるかぎりの「現場」からの立証に努めてきました。一審以後も現場での健康被害の発生が続き、控訴審ではその声を法廷に届ける活動(陳述書の提出)なども行ってきました。
 我々のこのような活動に対する裁判所の答えとしての大阪高裁の判決が2011年1月25日に下されます。一審敗訴の中での高裁判決であり、予断は許しません。
 裁判所が現場での被害発生を前提に、化学汚染における被害者の立証の困難さを考慮して公平かつ患者に展望を与える判決を期待しているところです。そして杉並病がそうであったように、化学汚染に対する警鐘と位置づけ、被害者や専門家のネットワークの拡大と、被害の防止や救済制度構築のための大きな足がかりとしたいと考えています。

池田直樹 弁護士の所属 ・大阪弁護士会公害環境委員会
            ・環境法政策学会・日本環境法律家連盟
           
著書の紹介 『化学汚染と次世代へのリスク』

著 者 日本弁護士連合会第46回人権擁護大会-シンポジウム
第2分科会実行委員会
出版社 日本弁護士連合会 2004年刊

発達障害と化学物質

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会報6号掲載 より

特別寄稿2

発達障害と化学物質


        渡部 和男(元浜松医大 医学博士)    
 

          発達障害と化学物質に関する詳しいことは私のHPに掲示してある
        「危険な道:子供の発達に対する毒物の脅威(社会的責任の医師大ボストン
         支部)」を参考にして下さい。
    【参考】http://www.maroon.dti.ne.jp/bandaikw/child/InHarm'sWay/InHarm'sWay.htm
          

 子どもは子宮の中で発達し、生後も発達を続ける。これは神経系も例外でない。神経細胞は試行錯誤を重ねながら、正常な場所に達し、情報を受け取る樹状突起を発達させ、情報を送る神経線維をのばす。
 これらの発達は多くの影響を受ける。私が頂いたテーマは「発達障害と化学物質」であるが、現実世界で使用されている約10万種という化学物質と発達障害との関係を述べ尽くすことは時間や資源の面から不可能です。さらに、化学物質の数は米国の化学物質登録サービスによると、5000万種類に達したそうです。全ての化学物質が日常的に使われてはいませんが、1980年代には100万種類であった事を考えると驚異的な増加です。

 発達障害や学習障害、行動障害は最近の教育現場で大きな問題となっています。教育現場にとどまらず医学分野でも注目を集めています。米国衛生研究所が提供している論文のデータベースにより発達障害 developmental disorderで検索すると、26,100の論文がヒットします。このように膨大な論文を全て読むことも困難です。幸い米国の医師グループ「社会的責任の医師大ボストン支部」が「危険な道:子供の発達に対する毒物の脅威」という報告書を出しています。この問題を詳しく調べたい場合は参考にして下さい。
 発達障害に関する詳しいデータは少ないが、影響を被っている子供たちは増加する傾向があると、方々で指摘されています。人間や動物での研究は日常的にある化学物質が子供の発達に影響を与えています。

 鉛や水銀・カドミウム・マンガンなどの重金属や、ニコチン、家庭や学校で広く使われている有機リンやその他の農薬、ダイオキシンやPCB、エタノールや溶剤が発達に影響を与えていることは良く知られています。これらは神経細胞などに対する直接的な毒やホルモンかく乱物質として作用したり、神経伝達を妨害したりし、様々な細胞間の情報伝達をかく乱します。以下に身近にある主な有害物質が与える影響を見ます。

・鉛: 乳児や幼児期の血中鉛が増加すると、注意欠陥や衝動性増加・学業成績低下・攻撃性・非行行動と関連する。学習への影響は現在「安全」と考えられているレベルより低い血中鉛レベルで見られている。

・メチル水銀: 胎児期のメチル水銀大量被ばくは、精神遅滞や歩行障害・視覚障害を起こす。日常的な魚摂取から生じるような、胎児期に少量を被ばくすると、その後の言語や注意・記憶の障害に関係がある。日本でメチル水銀汚染の原因となった胎児性水俣病患者では、知能障害や言語障害、発育障害が見られています。2010年に起こった和歌山県のイルカ漁に反対するグループの行動はひんしゅくを買うものであるが、子供たちの健全な成長に責任を持つ大地町教育長は科学的根拠も示さず、「私も長年、イルカを食べてきたが、健康被害など聞いたことがない」などと話し、和歌山県知事も安全宣言を出している。子供たちや成人の脳神経をおかす懸念のあるメチル水銀摂取を可能な限り抑える方策を考えなければならない人達の発言とは思えません。

・マンガン: マンガンは非常に重要な酵素反応で触媒として必須です。しかし、研究によると、幼児期の過剰なマンガン被ばくと多動や学習障害とが関連するといわれています。自分たちが使用している水道中のマンガン濃度をチェックする価値はあるでしょう。

・ニコチン: 妊娠中タバコを吸った女性から生まれた子供は、IQ 低下や学習障害・注意欠陥障害の危険があります。また受動的にタバコの副流煙に被ばくした女性から生まれた子供も、会話や言語技能、知能の障害の危険があるとされています。

・ダイオキシンとPCB: 一時期、焼却場とダイオキシンが多くの関心を集めました。最近では忘れ去られた感がありますが、いぜんとして大きな問題です。胎児期にダイオキシンに被ばくしたサルは、学習障害を示します。また、胎児期に低レベルPCB被ばくをした人間とサルに学習障害があると報告されています。胎児期にPCB に被ばくした子供を数年後に検査した時、IQ 低下や多動性・注意欠陥が明らかです。胎児期にダイオキシンに被ばくしたサルでは、学習障害が起こったと報告されています。

・農薬: 一般的に使われている有機リン系農薬は、動物実験で発達の決定的な時期に少量を一回投与すると多動性を生じさせ、脳の神経伝達物質に長く続く変化を起こします。 有機隣剤の一つは発達中の脳でDNA 合成を減少させ、細胞数を減少させます。ピレスロイド殺虫剤も、発達の重要な時に少量を被ばくした動物で、永続的な多動性を生じさせます。メキシコの農業社会で種々の農薬に被ばくした子供は、農薬被ばくが少ない社会の子供よりスタミナや協同作用・記憶・絵を描く能力が劣っていることが知られています。

・溶剤: 発達中に溶剤被ばくをすると、脳構造の先天異常や多動性・注意欠陥・IQ 低下・学習と記憶の欠陥などの障害を起こすとされています。動物実験や人間の研究結果によると、妊娠中にトルエンやトリクロロエチレン・キシレン・スチレンのような一般的化学物質の被ばくも学習障害を招き、特にかなり大きな被ばくその後の子供の行動を変化させると報告されています。

・アルコール: 妊娠中に母親が1 日に1 度アルコールを飲むと、子供が衝動的行動を示すことや、記憶やIQ・学業・社会適応の欠陥がその後続くと考えられています。

 これまで例示してきた化学物質により、愛する子供達が犠牲になることは、大人である私たちが防がなければならないことです。香料のような身の回りにまとう不必要な化学物質の使用も減らしていかなければなりません。これらは化学物質過敏症患者の要望というよりは人類全体が必要としていることです。

 これらの危険な道から自分や子供達を抜け出させるために、表題の下にあるURLをたどって、「危険な道の外へ:子供の発達に対する有毒な脅威を防ぐ、子供の発達のために健全な環境を作る、親と将来の親のための個人的指針」を参考にして下さい。